第13回 ベーゼンドルファーのおはなし

13回 オーストリア、クレムスエッグ城にて

(文:川口成彦)

(文:川口成彦)

オーストリアのリンツより電車で約30分のクレムスミュンスターという街にあるクレムスエッグ城。このお城は膨大な数のピアノを保管した楽器博物館としても今日知られています。今年4月に博物館を訪れたのですが、オーストリアの巨匠パウル・バドゥラ=スコダの所有するオリジナルのフォルテピアノをはじめそのコレクションの数には非常に驚きました。18世紀から20世紀初頭のものまで膨大に揃えたこの博物館ではやはりオーストリアに縁のある製作家の楽器を数多く見ることが出来ました。そして貴重なベーゼンドルファーのピアノにも数台出会うことが出来たのでご紹介したいと思います。

クレムスエッグ城のピアノコレクション

クレムスエッグ城のピアノコレクション

1829年のベーゼンドルファー】

 まずはじめにご紹介するのは1829年、つまりベーゼンドルファーが創業した翌年に作られたピアノです。6オクターヴ半の音域を持つ楽器で、ペダルが4つ付いています。ウナコルダ、バスーン、モデレーター、ダンパーの4つです。ウナコルダとダンパーのペダルは今日のピアノにも付いているのでお馴染みですが、バスーン(ファゴットペダルとも言います)、モデレーターは今日には無くなってしまったペダルです。前者はペダルを下すことで紙状のものが弦の上に触れ、ジージーといった音色が出るようにする装置です。後者はペダルを下すことで薄いフェルト状のものが弦とハンマーの間に入ることで音色が柔らかくなる装置です。これらはジョン・ケージが1940年に考案した「プリペアド・ピアノ」の発想に大変近いものを感じます。内部を撮った写真の低音域から中音域にかけて黒い横棒のようなものが確認出来るでしょうか。これがバスーンの装置です。譜面台で見にくくなってしまい、大変申し訳ありません。 また写真から分かりますが、弦は美しい平行弦です。

古いベーゼン

平行弦

こちらがネームプレートです。創業者イグナーツ・ベーゼンドルファーの名前の下には “Broadmanns Schüler”(「ブロートマンの弟子」) と書かれています。第1回のベーゼンドルファーのおはなしでも書いたように、イグナーツ・ベーゼンドルファーは19世紀初頭のウィーンのピアノ製作者の重鎮ヨゼフ・ブロートマンの弟子でした。初期のベーゼンドルファーのネームプレートにはブロートマンの弟子であることを記載しているものが多く見られるそうですが、この度初めて生でそれを見て写真を撮ることができました。また「ブロートマンの弟子」の下には工房の住所が書かれています。

工房住所

こちらの博物館ではこの1829年のベーゼンドルファーの真横になんと1808年のヨゼフ・ブロートマンのピアノが置かれていました。師弟の作品を見比べるのはとても面白い時間でした。残念ながら聴き比べることは今回出来ませんでしたが、、。文字は分かりにくくなってしまっていますが、ブロートマンのネームプレートの写真も掲載しておきます。

ブロートマン

ブロートマンネーム

 

1876年と1899年のベーゼンドルファー】

 創業後間もないベーゼンドルファーとは打って変わり、19世紀後期のルードヴィヒ・ベーゼンドルファーの時代のピアノも見ることが出来ました。譜面台が美しい1876年のもの(バトゥラ=スコダ氏の楽器)と現代のピアノ同様真っ黒な1899年のものです。音域は前者は高音部が現代の88鍵より3音少ない85鍵です。もう一方は88鍵備えています。ペダルはウナコルダとダンパーのみの2つに減っています。バスーンやモデレーターのような装置は演奏効果も非常にあり、楽曲をより劇的にすることが出来るものであるため、これらの装置が現代に向けて消えてしまったということは個人的に不思議に思うことの一つです。さてこれらのピアノではブラームス(1833-1897)を演奏してみたくなりますね。1876年のピアノではヴァイオリンソナタ第1番『雨の歌』、1899年のピアノでは作品118119の小品集なんか素敵かもしれません。

1876年のピアノ

1876年のピアノ


1899年のピアノ

1899年のピアノ

 

【クレムスエッグ城のご案内】

クレムスエッグ城2

 ベーゼンドルファーのピアノを上記の他にもこの博物館では色々と見ることが出来ます。今回はベーゼンドルファーのおはなしということで他のピアノには触れませんでしたが、ご覧の通りこのお城は貴重な古いピアノの宝庫です。ヨーロッパでピアノ探索をしたい際に必ず訪れたい場所の一つかもしれません。また例えばホルンをはじめピアノ以外の楽器も博物館は数多く所有しており、そちらのコレクションもおすすめです。そしてクレムスミュンスターの街も観光名所は少ないですがとりあえず料理が美味しく大変楽しめました。

こちらがクレムスエッグ城のホームページです。是非ご覧になってみてください!

https://www.schloss-kremsegg.at/DE/HOME

 クレムスエッグ城3